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「建築基準法第2条の建築物」と世界遺産

建築基準法上の建築物

経済産業省ニュースリリースで、農業ドームは建築物に値しないという判断を公表しました。

www.meti.go.jp

経産省の調査による見解は、

照会のあった農業ドームについては、通常の屋内的用途に供さず、その天井部が取外し自由である場合など建築基準法上屋根とみなされないと判断できる場合は、建築物ではない

とのこと。これにより、

建築基準法上の位置づけが明確化するため、今後、省エネ・耐久性等に優れた特殊発泡ポリスチレンを活用した農業ドームの普及が進み、生産性の向上及びコスト低減による農業経営の収益性向上

が期待できるそうです。

法律に照らす評価基準が、「天井・屋根部分が取り外し自由だから、屋根とはみなさない。だからこれは『建築基準法における建築物』ではない」というのが面白い判断だと思います。

アルベロベッロのトゥルッリ

「屋根が取り外し自由だから建築物ではない」という緩和策は、農業関係の施設建築に役に立つ、かなりトンチの利いた政策といえます。

「屋根が取り外し自由だから建築物ではない」という理屈を、地域ぐるみの「税金逃れ」対策として活用し、それが「ユネスコ世界遺産」の建築物になった・・・みたいなものもあります。

ナポリ・ローマ歴史地区やフィレンツェベネツィアなど特徴的な建築物が世界遺産となっているイタリアには、「アルベロベッロのトゥルッリ」という世界遺産登録された街があります。

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このアルベロベッロ地域にあるトゥルッロという建築様式の建物の集合集落、「トゥルッリ」が世界遺産の対象です。

このトゥルッロという建物は、石灰質でできた壁で建物の外枠を作り、その屋根として、石灰岩を瓦のように成型し積み上げたものです。

トゥルッロの屋根は、いかにも石を積み上げただけで、地震でも起れば崩れ落ちてしまうんじゃないかと思うような見てくれです。

そして、これが「屋根が取り外し自由だから建築物ではない」という、理屈から考案された解体と再建築の容易な簡易建築様式なのです。

アルベロベッロのトゥルッリ - Wikipedia

17世紀のイタリアでは、各地域の「領主」が胴元のナポリ王国に、家屋数に応じた税金をまとめて支払う収税システムになっていました。

アルベロベッロの領主は、納税額を少なく見積もるため、住民にトゥルッロタイプの簡易建築建物を作って住むようにいいました。

トゥルッロのような建物だと、いざ中央から家屋数を誤魔化していないかの監査が入った時には、トゥルッロの屋根を崩して石灰でできた壁だけの地域をみせて、「ここは住居じゃないから!」といい張って、税金を逃れていたそうです。

そして、中央からきた官吏がいなくなると、トゥルッロの石の屋根を積み上げて、住宅に戻すという、スクラップビルドを繰り返していたみたいです。

こっけいな気もしますが、そのために、即席で再建築可能な石灰の屋根の住居郡が作られ、これが可愛らしい原型を留めたまま現在に至って、世界遺産になったようです。

横浜市市庁舎予定地の農業ドーム

農業ドームとは、ICT技術を施設内に駆使した近未来的なハウス栽培ドームを指しています。

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一昨年辺りに、横浜市ビジネス街のど真ん中、みなとみらい線馬車道駅」近くに巨大な半球状の建物が出現し、建築業界でもデザイン性などで話題になりました。

ここは、横浜市庁舎移転候補地であって、市庁舎新築工事開始までの半年間ほどの遊休地を活用した時限的建築物でした。

www.kanaloco.jp

この建物は、横浜市の農業系ベンチャー企業・グランパ(神奈川県横浜市中区不老町)が、全国展開する農業ドームの「モデルハウス」。

建築基準法のグレーゾーン解消

今回の国による「建築基準法における建築物ではない」という決定は、今後の同社の急成長に拍車をかけることになるでしょう。

農業ドームが建築基準法における建物か否か。これを経産省が調査する切欠となったのは、産業競争力強化法に基づく「グレーゾーン解消制度」の活用です。

これは、建築・建設業務に限らず、あらゆる業種の事業者が、自分が展開するニュービジネスが法律上のグレーゾーンにある場合、それを確認・解消するために経産省などに「照会」を求める制度。

企業の健全な発展に大きく資する行政システムです。